開発事例 2
マイクロ波を用いた
外科手術用デバイス
「Acrosurg.(アクロサージ)」
マイクロ波を用いた外科手術用エネルギーデバイス「Acrosurg.(アクロサージ)」が2017年4月に発売されました。この製品は、滋賀医科大学バイオメディカル・イノベーションセンターの谷徹特任教授(前、外科学講座教授)との共同開発により製品化されたもので、マイクロ波による優れた凝固止血能力とハサミ型のデバイス形状により、さまざまなメリットを提供します。
PHASE 1製品化のきっかけ
2011年秋に東京で開催された「第49回 日本人工臓器学会大会」で、滋賀医科大学バイオメディカル・イノベーションセンターの谷徹特任教授(前、外科学講座教授)が開発されていた「マイクロ波を用いた外科手術用エネルギーデバイス(※)」の学術発表がなされました。聴講していた日機装の企画・開発スタッフは、その発明に感銘を受け、早速、谷徹特任教授に連絡を取り、日機装に製品開発をさせていただきたいと申し出ました。谷徹特任教授も「やりましょう」とご快諾くださり、製品化計画が立ち上がりました。
※エネルギーデバイス:デバイスから放出するエネルギーで血管や組織を凝固・封止・切離する電子機器
PHASE 2日本人にマッチしたデザイン
製品化を進めるにあたっては、まず“日本人の手のサイズ”にマッチした形状・大きさをめざし、谷徹特任教授をはじめ、男女双方の外科医へのヒアリングを重ね、人間工学に裏付けされた日本人が使いやすいデザインを追求しました。試作を進めるなかでハサミが鋭すぎて生体組織が凝固する前に切れてしまったり、デバイスを持つ部分がマイクロ波エネルギーの伝達の損失で熱を持ってしまったりと数多くのトライアンドエラーを経て、“世界で初めてとなる「ハサミ型」マイクロ波デバイス”「Acrosurg.」の開発に成功しました。
PHASE 3患者様・術者、双方の負担を軽減
「Acrosurg.」は、マイクロ波とハサミ型の形状によってさまざまなメリットを提供します。
マイクロ波とは、電子レンジなどでも利用されている2.45GHz帯の電磁波です。マイクロ波を照射すると組織中の水分子に作用し、活性化した分子運動によって組織そのものが熱くなるため、組織を焦がす心配がなく、周辺の損傷範囲も最小限に抑えられます。これによって手術後の創傷治癒が早まることが期待されます。
また、ハサミ型の「Acrosurg.」一つで、皮膚組織の切離から組織・癒着の剥離、臓器・組織の切離・止血、脈管切断・封止まで一貫して作業することができます。そのため、手術器具を持ち替える回数が減り、手術時間の短縮が期待され、患者様・術者、双方の負担軽減につながります。
手術の流れとアクロサージの対応範囲
PHASE 4製品名に込めた思い
「Acrosurg.」の由来は、ラテン語で「最高の」を示す“Acro”と、英語で「外科手術」を示すsurgeryの短縮形“surg.”を組み合わせたもので、患者様・術者、双方の負担を軽減する“最高の外科手術”の実現に寄与したい、という私たちの思いが込められています。
開発者の声
滋賀医科大学バイオメディカル・イノベーションセンターの谷徹特任教授(当時、同大学外科学講座教授)が手がけられた試作品やその試験映像を初めて拝見した時の感動と、市場性に対する大きな期待は今でもはっきりと覚えています。
当社は、医療機器メーカーとして、これまで多くの製品を市場に送り出してきましたが、その都度、研究開発品と実販売製品との間にある技能的ハードルを経験し、それを乗り越えてきました。この「Acrosurg.」も同様に、ラボで想定していた使用方法と実臨床による使用方法に大きな乖離があり、追加開発や改良開発を必要とする状況が幾度となく発生しました。
医療現場の先生方やその治療を受けて元気になられる患者様の様子を想像しながら製品化を進めてきましたが、無事、市場に製品を送り出すことができたことに高揚感を覚えています。
メディカル事業本部 市場開発部長 浅野 拓司