はじめに

電気式カチオン交換器は、カチオン交換膜を用いて陽イオンを移動させることにより、サンプル水中から陽イオンを除去する計器です。火力・原子力発電所の復水酸導電率を測定する際のサンプル前処理等に使用します。電気式カチオン交換器は膜を用いて陽イオンを通過させる方式なので、樹脂のように消費しない点が特長です。

火力・原子力発電所における電気伝導率

火力・原子力発電所では、水中の電解質濃度の指標として電気伝導率を測定しています。火力発電所のボイラ水中に含まれる電解質には、水由来のH+、HO-、水質調整剤由来のNH4+、N2H5+、不純物のNa+、Ca2+、Cl-などが挙げられます。
揮発性処理を行っているプラントでは、水中の微量な塩類を検出するために、強酸性陽イオン交換樹脂を通過させた後の電気伝導率を測定します。強酸性陽イオン交換樹脂を通過させると、Na+、Ca2+、NH4+、N2H5+などの陽イオンはH+に交換されます。H+はNa+やCa2+と比較して極限モル伝導率が大きいため、塩類の検出感度が増幅されます。また、水質調整剤由来であるNH4+、N2H5+などはH+に交換されてH2Oとなります。
その結果、水中の微量な不純物を感度良く測定することができます。

従来の陽イオン交換方法

一般的に、陽イオンを除去する際はイオン交換樹脂が用いられます。ところが、復水中にはNH4+、N2H5+が多く含まれるため、イオン交換樹脂の消費量が多くなります。そのため、樹脂の交換や再生等の保守に手間が必要でした。

当社開発品:電気式カチオン交換器

そこで、当社は、保守低減を目的として「電気式カチオン交換器」を開発しました。
電気式カチオン交換器とは、カチオン交換膜を用いて陽イオンを移動させることにより、サンプル水中から陽イオンを除去する計器です。膜を用いて陽イオンを通過させる方式なので、樹脂のように消費しない点が特長です。

また、発電所にて「電気式カチオン交換器」の実缶試験を実施した結果、現状の樹脂筒方式と同等以上の性能を確認しています。

装置の仕様

原理 カチオン交換膜による電気透析法
構成 制御部、セル部、フィルター、流量スイッチ
寸法 制御部 144(W)×144(H)×315(D)
セル部 73(W) ×445(H)×120(D)
電源

AC100V 50/60Hz

消費電力 >通常時 約0.3A(0.5μS/cm以下)
最大電流 2.0A以下(海水漏洩時等)
試料水条件 流量 150~300ml/min.
圧力 大気圧
温度 10~45℃
制御信号 警報リセット、セルON
警報 1点
Over Load 2A以上
Temp. High 60℃以上
Sample Fail
保守 フィルター交換、膜交換

装置の特長

  • カチオン交換膜は陽イオンを透過させる膜であるため、再生が不要です。
  • フィルターの交換、膜の交換頻度が少ないためメンテナンス時間の低減が可能です。
    (交換頻度は水質によります)
  • 外部からの装置起動、警報リセットのリモート運転が可能です。
  • 警報により装置動作状況を確認できます。

装置の性能試験

電気式カチオン交換器の性能試験結果を図3、図4に示します。 火力プラントの通常時サンプルを模擬し、1mg/lのアンモニア水をカチオン交換器に通水したときの、セルの出入口導電率を計測した結果を図3に示します。セル出口の導電率はアンモニア添加前後で変化がなく、純水の導電率に近い値となり、陽イオンであるアンモニアが除去されていることが明確です。
さらに、海水漏洩が発生した場合を模擬し、1および5mg/lのNaClを注入したときのデータを図4に示します。セル出口導電率は、セル入口導電率より感度良く、NaClの注入を検出しています。

図3 性能試験(アンモニア添加試験)
図4 性能試験(模擬海水添加試験)

まとめ

本装置はすでに多くの発電所に採用いただき、従来の定期的なメンテナンス低減の一翼を担っております。また、今後増加すると考えられる高pH水質に対しては、イオン交換樹脂の負荷がさらに多くなると考えられ、これまで以上にカチオン交換器のメリットが大きくなるものと期待しております。